安いプライドは捨てる
大家「よう、こんちは。溜まっている家賃なんだけどね。」
ピエロ男「あー、大家さん、すいません。仕事があと少しで決まるんで、もうちょっと待ってくれますか。」
大家「おいおい。あとちょっと、あとちょっとで、もう半年だよ。」
ピエロ男「どうも、すいませんです。」
大家「...。ところであんた、ピエロの手品ショーやってるんだってね?」
ピエロ男「そうなんです。いつの日か、そちらを本業にしたいとがんばってるんですよ。」
大家「ならさ、知り合いの幼稚園があるんだよ。そこで園児を前にそのピエロのマジックショーってのをやってくれないかい?やってくれたら、家賃を少し待ってもいいがね。」
ピエロ男「あー、すいませんね。わたし、子供相手のマジックショーはしない主義なんで。」
大家「子供相手の手品はできないのかい?」
ピエロ男「いえ、できます。できますけどね、やりたくないんです。これはわたしのポリシーといいますかね。」
大家「…あんたね、そんな安いプライドもっていると、いつまでも成功しないよ。」
ピエロ男「安いプライドじゃあないですよ。ポリシーですから。」
大家「なにがポリシーだい!あんたの大きな目標は『ピエロで食えるようになること』だろ?ピエロとして人前でショーをする機会が増えるほど、ピエロで食える確率は高くなるってもんじゃないのか?それをだよ。ポリシーだかなんだで、観衆を選り好みしていたら、いつまでたってもピエロで食えるようにならねえよ。」
ピエロ男「ま、確かに。」
大家「もしかしてあんた、電車で年寄りに席を譲らねえタイプじゃねえか?」
ピエロ男「ギクッ。よくわかりますね。だって、親切心で席を譲ろうと声をかけて、断られたら恥ずかしいじゃないですか?」
大家「やっぱそうか。だからそれも、安いプライドだっての。『人に優しくしたい』そういう立派な信念があるから、年寄りに席を譲ろうとするんだろ。断られて恥ずかしいとか、どうでもいいじゃないか。信念を貫いて行動することに意味があるんだよ。」
ピエロ男「はぁ、なんだか分かるような気がします。自分の大目標の実現を妨げる安いプライド、こいつは捨てなきゃならないですね。」
大家「おっ、わかってくれたかい。じゃあ、幼稚園のマジックショーの話、受けてくれるな?」
ピエロ男「はい、よろこんで!これからはいろんな人にマジックショーを見せて、地道に有名になっていきますよ。そうだ!大家さんも今からボクのマジックショーをご覧になりませんか?胴体切断のマジックを覚えたんですよ。」
大家「あいや、ちょっと忙しいから失礼するよ!」